あなたは虹についてどんなイメージを持っていますか?
綺麗、特別、メルヘン…
いずれにしても、ポジティブなイメージなのではないでしょうか。
「夜に虹が出たら人が死ぬ」
間違ってもそんな不穏なイメージはありませんよね。
今回は虹に関する言い伝えが出てくる、有栖川有栖さんの『虹果て村の秘密』をご紹介します。
あらすじ
12歳の上月秀介(こうづきしゅうすけ)は、夏休みを利用して、友達の二宮優希(にのみやゆうき)と共に、彼女の母の別荘へやって来ます。
優希の母は、推理小説家で秀介は彼女の作品、ひいては推理小説が大好きで、自らも推理小説家を目指しています。
別荘があるのは、街から遠く離れ、自然に囲まれた虹果て村。
昔は西果村(にしはてむら)と呼ばれていたのが、きれいな虹がよくかかることから、いつしか虹果て村と呼ばれるようになりました。そしてこの村に、虹に関する言い伝えがあるのです。
例えば、「虹の向こうに太陽が出たら村に不吉なことがある」「朝に虹を見たらその日はいいことがある」「夜に虹が出たら人が死ぬ」
言い伝えは全部で7つ。
そして秀介と優希が滞在中に殺人事件が発生します。
さらに運の悪いことに村から出られる唯一の道が土砂崩れで塞がれ、秀介たちは殺人犯と一緒に村に閉じ込められてしまいます。
警察が村にたどり着くまでの短い間、小説家志望の秀介と、刑事志望の優希が2人で協力して事件の解決を目指します。
江神二郎シリーズや火村英生シリーズで有名な有栖川有栖さんが初めて書いたジュブナイル・ミステリーです。
ミステリが初めての人も読みやすい
この小説、有栖川先生が「まだミステリの楽しさを知らない子どもたちに読んでもらいたい」という気持ちで書いたそうです。
ターゲットが少年少女なだけに、非常に読みやすいです。
ページ数も300ページと多くなく、サクッと本格ミステリの魅力を味わいたい人にぴったりです。
どういう点が読みやすいのか。
それは解くべき謎が明確に記されている点です。
秀介たちが事件を解くために、現時点での謎を羅列していったり、どこから手を付けていけばいいのか話し合ったり、読者側としても事件の内容が整理されていき、とてもわかりやすいです。
かといってすでにミステリをたくさん嗜んでいる人は楽しめないかと言ったら、そうではありません。
物語には、魅力的な要素がいっぱいあります。
クローズド・サークル、密室殺人、ダイイングメッセージ、言い伝え。そして冒頭には登場人物一覧と、村のマップなど、ミステリ好きには堪らない要素がてんこ盛り。
さらに、この本の主人公は、推理小説家あるいは刑事を目指す少年少女。つまり子どもです。それがどういうことかというと、行動に制限があるのです。
考えてみてください。村では殺人事件が起こり、いまだ犯人は捕まらず、村から出る唯一の道も土砂崩れで塞がれてしまっています。
殺人犯と村に閉じ込められてしまった状態で、秀介たち子どもの外出を、大人が許すはずがありません。
また、村にはたまたま休暇をとっていた刑事が居合わせています。
その刑事が中心になって現場保存や聞き込みをするのですが、もちろん彼も捜査情報を簡単に子どもに教えません。
行動が制限された状態で、得られる情報も少ない中、秀介たちは事件と向き合っていかなければならないのです。
最後に……
大人も子どもも、ミステリが好きな人も読んだことがない人も。
たくさんの読者層に刺さる作品ですので、ぜひお手に取ってみてください。