今回は今年の6月に東京創元社から復刊された斜線堂有紀さんの『死体埋め部の悔恨と青春』を紹介します。
本作は2019年に新紀元社から出版された同作を改稿&書き下ろし付で復刊されたもので、ファンの方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。
あらすじ:誤って人を殺してしまった新入生の前に現れた救世主
大学生になったばかりの祝部 浩也(はふりべ ひろや)は、帰宅途中、暴漢に襲われ、人を殺してしまいます。
途方に暮れている祝部に掛けられたひとつの声。
「助けてやろうか?」
声の主は、同じ大学に通う3年生の織賀 善一(おりが ぜんいち)。
祝部は突然現れた救世主にすがり、二人で死体を織賀の車へ。
これから死体を処分するべく車に乗り込むと、なんとそこには、既に別の死体が、、、
聞けば、どうやら織賀という男は、秘密裏に死体の処分を請け負っているという。
こうして織賀の秘密を知ってしまった祝部は、半ば強制的に「死体埋め部」の一員として、死体処理を手伝わされるハメになるのですが、、、
車内で繰り広げられる推理大会
死体を処理すると言っても、処理方法は毎回同じ。
山へ埋めに行く。
そして埋める死体はどれも、当然ながら訳アリです。秘密裏に処理しているというくらいですから。
山へ向かう道すがら、暇つぶしの一環として、織賀は祝部の隣に座る死体がなぜ殺されたのか、推理させます。
この推理大会が本作の見どころなのです。
ただ、織賀を満足させるためだけに、祝部は必死に頭を働かせます。
手がかりは、隣にある死体。
服装や持ち物、死体の状況、そして織賀が知っている依頼者の情報を聞き出して、祝部は推理を展開させます。
非常に読みやすい文体でライトな語り口なのに、推理はしっかり本格。
本格モノに慣れている人も、そうでない人も楽しめるのではないでしょうか。
そして死体処理を請け負う織賀もまた訳アリです。
死体埋め部のことがなければ、織賀はとても良い先輩かつ魅力的な人物です。
人懐っこい一面があるのに、どこか影が潜んでいて、自分の核心部分は決して見せないようなミステリアスな雰囲気。
彼の魅力にあてられているのは読者だけではありません。祝部もその一人。
確かに困っているところを織賀に助けてもらった、でもそのせいで死体処理を強要される。
織賀のことを恨んでいいはずなのに、どこか憎めないのです。
最後に………
祝部と織賀の行っていることは、もちろん犯罪です。
決して許されることではありません。
しかし、もっと二人の活動を見ていたい、この関係が永遠に続けばいいのにと思ってしまうくらいに、二人のことを嫌いになれないのです。
車内で繰り広げられる推理大会も、埋め部以外で過ごす二人の時間も、すべてが愛おしく思える。
こちらの作品が気になった方は、続編の『死体埋め部の回想と再興』もぜひチェックしてみてください。
在りし日の死体埋め部や、「あのあと、もしも、そうなら」で前巻のラスト部分の分岐した未来を描いています。
ぜひ、祝部と織賀のおりなす世界観に、どっぷり浸かってみてください。